オルカン フォワード シミュレーション 準備編
- はじめに
eMAXIS Slim 全世界株式 オール・カントリー(以下、オルカン)を対象として、モンテカルロシミュレーション(平均リターン μ およびボラティリティ σ の推定)やブートストラップ推定などを実施しようとする場合、最初に直面する問題は、「オルカンそのものの時系列データが十分に長く存在しない」という事実である。
オルカンは比較的新しい投資信託であり、長期的な分布推定や、複数の市場ストレス局面を含む検証を行うには、当該ファンド単体の実データのみでは分析期間が不足する。このため、オルカンの設定以前の期間をどのように補完するかが、分析の前提条件として重要となる。
本レポートでは、まずオルカンの実データが利用可能となる起点を明確にし、その後、当該期間以前を補完するための代替指数(プロキシ)を選定する。さらに、その選定が公式情報および公的・実証的資料に基づくものであることを示す。
- オルカンの実データ起点
2.1 信託設定日とデータの開始
eMAXIS Slim 全世界株式 オール・カントリー の信託設定日は 2018年10月31日 である。この日以降、オルカン固有の基準価額、純資産総額、分配金等の時系列データが生成される /1/。したがって、オルカンそのものを用いたリターン系列は、理論的にも実務的にも、この設定日以降に限定される。
2.2 利用可能な一次データ
オルカンの基準価額推移は、運用会社および証券会社の公開情報として提供されており、日次または月次データを取得することが可能である。これらのデータは、オルカンに対する平均リターン μ およびボラティリティ σ を推定する際の唯一の直接的な元データとなる。一方で、取得可能な期間は2018年10月末以降に限られるため、長期分析を行うには不十分である。
2.3 オルカンの公式ベンチマーク
オルカンは、その運用方針において MSCI オール・カントリー・ワールド・インデックス(配当込み、円換算ベース) への連動を目指すことを明示している。また、為替ヘッジは原則として行われない /1/ /2/。この事実は、代替指数(プロキシ)選定における最も重要な制約条件となる。
- 代替指数(プロキシ)が必要となる理由
3.1 期間不足問題
オルカンの設定日が2018年である以上、20年、30年といった長期投資の検証や、ITバブル崩壊、リーマンショック、欧州債務危機といった過去の大規模ストレス局面を含む分析を、オルカン単体の実データのみで行うことは不可能である。したがって、分析対象期間を拡張するためには、オルカン以前の期間を代表する代替指数を導入する必要がある。
3.2 代替指数選定の要件
オルカンの公式ベンチマークが MSCI ACWI(配当込み・円換算)であることを踏まえると、代替指数は以下の要件を満たす必要がある。
先進国および新興国を含む世界株式を対象としていること
配当を考慮したトータルリターン系列が取得可能であること
十分に長期の時系列データが存在すること
円換算ベースでの分析が可能、または明確な換算方法を定義できること
- 代替指数の選定
4.1 第一候補:MSCI ACWI(配当込み)
オルカンの公式ベンチマークが MSCI ACWI である以上、代替指数として最も整合性が高いのは MSCI ACWI そのものである。MSCI ACWI は、先進国および新興国の大型・中型株を対象とし、グローバル投資可能株式市場の約85%をカバーする指数として定義されている /3/。実務上は、Net Total Return(配当控除後の配当込み) 系列を用いることが望ましい。円建て系列が利用できない場合には、USD 建て系列を取得した上で為替レートにより円換算を行う。
4.2 第二候補:FTSE Global All Cap Inde
MSCI ACWI は大型・中型株を中心とした指数であり、小型株は含まれない。一方、FTSE Global All Cap Index は、大型・中型・小型株を含む世界株式指数であり、世界株式市場をより包括的に表現する指標である /4/。特に、Vanguard Total World Stock ETF(VT)が FTSE Global All Cap をベンチマークとして採用している点を踏まえると /5/、オルカンとVTを比較する文脈では有力な代替指数となり得る。
4.3 補助的参照:長期実証研究
代替指数そのものではないが、平均リターンやボラティリティの歴史的レンジを説明する根拠として、以下の実証研究が有効である。
UBS Global Investment Returns Yearbook(旧 Credit Suisse 年鑑) /6/
Dimson–Marsh–Staunton(DMS)データ /7/
Kenneth French Data Library(Fama–French データ) /8/
これらは、世界株式の長期的なリターンおよびリスク特性を示す実証的基盤として広く用いられている。
- オルカン実データと代替指数の接続方法
5.1 基本方針
分析においては、以下の接続方針を採用することが合理的である。
2018年10月31日以降:オルカンの基準価額データを使用
それ以前の期間:MSCI ACWI(配当込み)を代替指数として使用
5.2 連結(スプライス)時の注意点
オルカンと代替指数を連結する際には、両者のリターンが完全には一致しないことを前提とする必要がある。その要因として、信託報酬、売買コスト、指数と実運用の乖離、配当の取り扱い(Gross / Net)、為替換算方法などが挙げられる。これらの差異は誤差ではなく構造的な差であり、分析結果の解釈において明示されるべきである。
- 結論
オルカンそのものの実データは2018年10月31日以降に限定されるため、長期分析を行うには代替指数の導入が不可欠である。オルカンの公式ベンチマークに照らせば、代替指数として最も妥当なのは MSCI ACWI(配当込み)であり、分析目的に応じて FTSE Global All Cap や長期実証研究を補助的に参照する構成が合理的である。
References
/1/ 三菱UFJアセットマネジメント eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)商品情報
https://emaxis.jp/fund/253425.html
/2/ 三菱UFJアセットマネジメント オルカンをもっと知りたい!Q&A
https://emaxis.am.mufg.jp/lp/slim/ac/lab/002/
/3/ MSCI Inc. MSCI ACWI Index Factsheet
https://www.msci.com/www/index-factsheets/msci-acwi-index/0377593667
/4/ FTSE Russell FTSE Global All Cap Index – Factsheet
https://research.ftserussell.com/Analytics/Factsheets/Home/DownloadSingleIssue?issueName=GEISLMS
/5/ Vanguard Vanguard Total World Stock ETF – Investment Profile
https://investor.vanguard.com/investment-products/etfs/profile/vt
/6/ UBS Global Investment Returns Yearbook 2025 – Summary Edition
https://www.ubs.com/global/en/investment-bank/insights-and-data/2025/global-investment-returns-yearbook-2025.html
/7/ Dimson, Marsh, Staunton Triumph of the Optimists / Global Investment Returns
https://www.jbs.cam.ac.uk/centres/ceam/research/investing-over-the-long-term/global-investment-returns/
/8/ Kenneth R. French Kenneth French Data Library
https://mba.tuck.dartmouth.edu/pages/faculty/ken.french/data_library.html


